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いつも鞄に入れて持ち歩いているもの。 たまにブックカバーがかけられたりする。
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「ひかりー…私もうだめかもしんない」


昼間は殺人的な日差しもやや和らぎ心地よい風が舞い込む夕方の室内。
8月もあと僅かだというのに元気に鳴くセミの声にも大分慣れ、心乱されることもなくうとうとするわたしの傍でぐったりしているのは主である雛子だ。
薄目を開けて先程まで雛子が向かっていた机を見やれば沢山のプリント類が積まれている。右と左に一山ずつ。
真ん中は書きかけが一枚。
要するに、夏休みの宿題中なのだ。我がひよっこ主は。
もう何年も見てきたから大体のことは把握しているとはいえ、ここまで溜め込むことは今までなかったし、そもそも昨日まではあんなものなかったのでわたしは首を傾げる。


「何であんなことになったの?」
「あのねぇー…」
「うん」
「昨日の夜ガッコの校庭に忍び込んで花火しに行ったでしょ?」


なんとなく読めた気がした。


「それで?」
「さあやろう、とした瞬間に先生に見つかって、結局なにもできずに逃げたじゃない。でも今日花火組全員呼び出されて」
「あ、朝出かけたのは」
「うん、それ……で、反省文とペナルティ課題が」
「……それもひと夏の思い出」
「こんなの嫌だもん……」
「でも、逃げるときちょっとわくわくしてなかった?」
「正直楽しかった」
「なら頑張らなきゃ」


わあん、と口で言いながら涙を拭うふりをする様子にわたしは小さく溜息を吐いた。
溜息だめだよ幸せが逃げるよーなどと言ってる主の方がよっぽど幸せじゃなさそうなので少し元気づけてあげようと彼女の顔を見上げる。


「じゃあさ」
「ん?」
「今日は夜まで頑張ろう?それで、昨日できなかった分わたしたちと庭で一緒に花火をしよう」
「……うん!」


励まそうとしたのが伝わったみたいで、ようやく雛子の表情が笑顔になる。
何だかんだでわたしは甘いのだ。雛子が嬉しければわたしも嬉しい。
勿論、やるべきことはやらねばならないのでやらせない選択肢は存在しない。
やるぞー、なんて言いながら机に向かい直す背中をしばらく眺めてから、わたしは窓枠を蹴って暑さの残る街へと飛び出す。
雛子の友達のところへと向かう主想いなわたしに、風はとても優しくて。暑いのは得意じゃないけれど夏も悪くないな、と思った。





「ぴよぴぴ!」
「……ごめん、わからない」


そういえばわたし喋れないんだった。




似たもの同士の雛子とひかりさんでした。
寝てなきゃいけない時ほど何かしたくなるあまのじゃくです。
勉強しなきゃいけない時ほど掃除したくなるようなそういう。
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プロフィール
HN:
陸雛子
年齢:
32
性別:
女性
誕生日:
1992/05/29
職業:
学生
趣味:
刺繍
自己紹介:
最近夢をよく見るんだ。
ファンタジーな夢。
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