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いつも鞄に入れて持ち歩いているもの。 たまにブックカバーがかけられたりする。
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「なんでまってもうえええこんな時間なのー!?」


その日は悲鳴から始まった。
昨晩までの雨も上がって爽やかな青空が広がる朝、陸雛子の心中は爽やかとは程遠く。半分涙目になりながら自室を飛び出して慌しく階段を駆け下りる。
台所に滑り込みとりあえず電気ポットの再沸騰のボタンを押して八枚切りの食パンをトースターにセットしながらくるりとターン、もう一度二階まで一段飛ばしで駆け上がれば、なんだなんだとひよこたちも起き出して来て。
構うことなく階段を登りきって右側、洗面台で洗顔に歯磨きを済ませ、じぃーっと鏡の中の自分を見つめた。

「……目腫れてるよね」
「正確にはまぶたが腫れてるわね」

答えが帰ってきて思わずまじまじと鏡の中の自分…ではなく、その頭の上にいるねむたげなひかりに意図せず睨むような顔をする。
意図せず、というのはまぶたが腫れて目が酷いことになっているからそうなってしまっている、ということである。
やっぱりそう見える?と弱弱しく問えばもう一度似たような答えが返ってきたので、ひかりをそっと頭上から下ろして再度一階へとダッシュ。
トースト完成のベルが鳴ると同時に電子レンジに濡れタオルをつっこみ、焼きあがった食パンにマーガリンを塗って、もう温くてもいいやとマグカップに沸騰途中のお湯と粉ココアを投入。
そのまま台所で朝ごはんを済ませてしまうお行儀の悪さを発揮しつつ、カップを流しに置いた後丁度いいくらいになった蒸しタオルを持って居間へと。
ソファに座って蒸しタオルを目に当てて一息つけば、自然と思考は昨日のことへと移行する。


告白したんだ。
好きって言ったんだ。


じわじわと実感が広がってきてうあーとかあーとか身悶えするような声を洩らして足の先をばたばたさせる。昨晩もそんな感じで暫く眠れなかった。
そもそも、そんなすぐに告白しようとは思っていなくて。ただ、その前の晩に見た夢が、

『好きだよ』
『ごめんそういう風に見たことない』

なんていう酷く簡潔でリアルで悲しく滑稽な告白風景だったからつい我慢できず、まったくもって相手にとっては唐突かつ意味のわからないタイミングで言ってしまった。
好きな人に意識されてない、というのはある種のコンプレックスのようなもので、決して当人に言われたことのある言葉ではない。
なのになんであんなのリアルだったのだろうと記憶を手繰ってみれば、中学の時の告白玉砕が思い当たる。
そういえば先輩にそんな風に言われたっけ、とばたばたさせていた足を止めれば蒸しタオルを外す。
私だって、女の子だ。やや温度を失ったタオルをぎゅっと握って呟けば、そうだよね、といつの間にか降りてきていたひかりの声が耳に届く。でも、もっと気にした方がいいところもあると思うわ。そうもひかりは続ける。
……え?
ずっと圧迫されていたためぼやけている視界で捉えた腕時計の針を見て――― 本日二度目の悲鳴が陸家に響き渡った。

 

 


「あー、やっぱり早起きして髪の毛くらいどうにかすればよかったかなあ……!」


学生鞄をかけた方の手ではねている髪の毛を引っ張ってそんなことをぼやく。
なんとか目の腫れをひかせ、あとは制服に着替えて行ってきますするだけで精一杯だったため、早歩き大会を開始せざるを得なかったのは数分前のこと。
待ち合わせ場所に遅れないようにするにはそんなことをしている暇は当然なかったのだが、となるとやはり悔やまれるのは起床時刻。
ただでさえ洋服が女の子らしくないと男女どちらか一瞬迷う、と言われているのだから少しは気を配るべきだったろうか。
むう、と口を尖らせつつも朝からのフル稼働で徐々に息が切れてきていたので、少し速度を落として深呼吸とばかりに冷たい冬の空気を大きく吸い込む。
眠気や疲れや悩みとか、なんかそういうものがクリアに冷えてゆく感覚。

……いい天気だし、ところどころに残っている雨粒はきらきらして綺麗だし、空は青いし。
何より、待ち合わせ場所には想い人がいるんだ。
好きがどうとか、意識されてるがどうとか、女の子らしさとか。そういうのはもう置いておいていいんじゃないだろうか。
だって。

「…………可愛いって言ってもらったじゃんね」

その時の気持ちを反芻するように簡単に熱くなった胸をぎゅっと押さえる。
我ながら単純だとは思うが、そもそも変に昔のことを思い出してぐちゃぐちゃ悩み過ぎたのだ。
特に飾らない自分を認めてくれていたのなら、いつもの顔でゆけばいいのではないか。
それにしたってかまわな過ぎるのは違う気もするけれど、まあ、明日頑張ろう。

よしッ、と頬を軽く叩いて気合を入れなおし、今度は駆け出す。
弾む息にあわせてだんだんと気持ちも弾んでくる。
いつもは真直ぐ行く道を右に曲がり、坂を上ってゆけば良く知る後姿と青空に真っ白く光る雲が見えて。
おはよう、と笑顔で駆け寄れば、照れたような笑顔と共に挨拶が返ってきた。


 




でも、いつもの会話しててもなんか少し感じが違うよなあ、と思ったりもするし。
今まで気がついていなかった細かい癖がちょっとだけ見えたりして、なんかちょっと嬉しかった朝。
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プロフィール
HN:
陸雛子
年齢:
32
性別:
女性
誕生日:
1992/05/29
職業:
学生
趣味:
刺繍
自己紹介:
最近夢をよく見るんだ。
ファンタジーな夢。
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